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ヘルスケアビジネス探訪記 in マレーシア(3)

ヘルスケアビジネス探訪記 in Malaysia

 番外編:インドネシアから考えたEPA(Economic Partnership Agreement)について

(1)はじめに

先日、インターネットで「外国人介護福祉士の訪問介護解禁へ EPAで厚労省」という記事を目にしました。EPA(以下、「本制度」とします。)による外国人介護士、看護師に関する事項は、私にとっても予てからの関心事であり、マレーシア留学においても常に自分なりに考察を深めたいと考えていた重要なテーマでした。

そして、先日、その対象国の一つであるインドネシアを訪れる機会がありましたので、現地で感じたことをご紹介させていただきたいと思います。

本寄稿が「ヘルスケアビジネス探訪記 in Malaysia」というタイトルでありながら、今回ばかりはインドネシアの話題に終始しますが、どうかお許しいただければと思います。

(2)インドネシア・バンドゥンについて

私が訪れたのは、インドネシアの第3の都市バンドゥン(人口:約250万人)という場所です。皆さまもご存知のようにインドネシアは日本の約2倍の人口を有するイスラム教圏の国であり、ASEAN域内の最大の国として国際社会における政治的・経済的な発言力を増しています。

写真1 バンドゥン市内

01-バンドゥン市内 (800x450)

写真2 バンドゥン空港

02-バンドゥンの空港 (800x450)

写真3 バンドゥンの鉄道駅

03-バンドゥンの鉄道駅 (800x450)

ちなみに国民一人当たりの購買力平価のGDP (USドル、2014年)については、日本が約38,000ドル、マレーシアが約25,000ドル、インドネシアが約11,000ドルという関係にあります。

インドネシアというと、気候的にはマレーシアに劣らぬ暑い地域という印象ですが、意外にもバンドゥンは高原に位置しているために非常に涼しい気候です。社会インフラは一通り揃っていますが、空港も鉄道駅も日本に比べると人口の割にこじんまりとしており、また道路の信号の整備はこれからといった感じでした。学園都市であるバンドゥンは街全体が若者の活気で満ち溢れ、マレーシアに比べると開放的な雰囲気が漂っていました。

今回の訪問記は全て私の印象に過ぎませんが、バンドゥン市内ではマレーシア滞在の時よりも民族間の住み分けや緊張があまり感じられませんでした。英語はマレーシアに比べ各段に通じません(日本と同じくらいかもしれません。)が、それを十分に補うだけの心遣い、おもてなしが随所にあり、日本人としてほっとすることが何度かありました。街中はマレーシア以上に日本車が満ち溢れ、広く日本文化が受け入れられている状況がよくわかります。

一方で貧富の差はマレーシア以上に大きいと感じることが多く、驚くような豪邸が並ぶ一方で、物乞いや路上生活を強いられている方々も多くいました。

(3)インドネシアから見た本制度の現状について

皆さまもご存知のように本制度は、試験の合格率、その後の定着率、受け入れ数をみてもいろいろな課題が指摘されています。

私はこの度のインドネシア・バンドゥン訪問をきっかけに、日本に派遣する国の立場からの視点を自分なりに考察したいと考えていました。そして現地にある日本語学校Akinosora(代表 Aki Pratomodono氏、職員数17名、生徒数150名)の職員の方々と意見交換をさせていただく機会を得て、さらに受講生の皆さんへのアンケートの実施にもご協力いただくことが出来ました。職員の方々はどなたも日本語が大変流暢であり、かつ漫画を初めとする日本文化にも大変精通しておられました。

写真4 現地の日本語学校Akinosoraの方々との記念撮影

04-現地の日本語学校Akinosoraの方々との記念撮影 (800x450)

でも、本制度については、一部の方しかご存じなく、そのことは私にとって大変意外でした。職員の方々のお話では、インドネシアは多民族国家であるため、先ず各民族の言葉が話せる上で、インドネシア社会で必須であるインドネシア語を習得し、さらに国際言語としての英語、そして最終的に第4言語として日本語にたどり着く流れが一般的だそうです。マレーシアでは4~6か国語を話す人々は決して珍しくありませんが、インドネシア社会ではマレーシアほどに英語が普及していない実情を踏まえると、日本語まで話す方々は、この社会で極めて一部のエリート階層に属しているものと推測されました。そんな中にあって日本人でさえ合格が容易ではない看護師や介護福祉士の国家試験に合格するということは、いかに至難の業であるかということを改めて考えさせられました。

そしてAkinosoraの生徒の皆さんにご協力いただいた本制度に関するアンケートでは、次のような結果を得ることができました。30名のアンケートに協力した受講生のうちの6割が「仕事を見つけるための理由で日本語を勉強している。」と回答したにも関わらず、本制度のを知らないと回答した方が圧倒的な多数を占めました。IT産業に力を入れ、「スタートアップ・バンドゥン」のスローガンのもとに起業家精神に溢れるこの都市は、近年、さらなる成長を遂げており、その結果、日本企業の関心も高まっているようです。

写真5 本制度に関するアンケート結果

05-アンケート結果

またインドネシアはフェイスブックの普及率が高い(6,500万人が加入、2013年、UBS推計)というお国事情があり、それがもたらす「口コミ」の影響力を考えると、もはや本制度は日本からの周知活動の影響力そのものよりも、情報自体がインドネシアの方々の間で素通りされている現状があるのではないかと考えざるを得ませんでした。なぜなら仮に本制度が他の就業機会に比べて魅力があるのであれば、インドネシアのようにソーシャルメディアが普及した社会ではすぐに情報が共有されると思うからです。

(4)本制度の今後の在り方について

私はかつて日本国内における本制度に関する議論の経過を把握する中で、これらは全て「受け入れる側からの視点」に基づいて、その是非が論じられていたように思います。

でも、既にマレーシア滞在してから、本制度の対象国のうちフィリピンの人々については、英語を武器に欧米への就労による移住に目標を定める人が多く、もはや日本人への看護、介護にはあまり魅力的を感じない傾向が強いということをこちらの日本人シニア団体の方々から教わっていました。

私自身、本制度の是非については、マレーシアでフィールドワークを行ってきた現在においても、明確な意見を持つに至っていませんが、一つだけ自身の見解を改めるべき点があるならば、それはもはや私たちはこれまでのように「選ぶ側」に終始して議論できる立場にはないという現実でした。